大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和26年(ナ)4号 判決

原告 竹内清松

被告 石川県選挙管理委員会

一、主  文

小松市選挙管理委員会が西清作の異議申立により昭和二十六年五月十九日なした「昭和二十六年四月二十三日執行の小松市議会議員の一般選挙の選挙会に於て当選人と決定された竹内清松の当選はこれを無効とする」旨の決定はこれを取消す。

被告が右決定に対する原告の訴願につき同年七月四日なした「訴願人の請求を棄却する」旨の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因として昭和二十六年四月二十三日行われた小松市議会議員選挙に於て原告が立候補し翌二十四日の選挙会で原告の得票を六百五十票として当選人と決定し小松市選挙管理委員会でその旨告示したがこれに対し次点六百四十八票の西清作より異議を申立て同委員会は原告の得票中「竹内」「タケウチ」「たけうち」と記載した三票は同姓候補者竹内伊知といづれに帰属すべきか不明であるとして無効とし原告の得票は六百四十七票として主文掲記の決定をなした。そこで原告より訴願を提起し被告は右三票の外小松市選挙管理委員会に於て原告の有効投票に数えられた「三サ」の二票を原告の通称の記載とは認めがたいとして無効とし結局原告の得票は六百四十五票であるとして主文のような裁決をなした。然しながら「三サ」は原告の幼年期より現在に至るまでの通称「さんさ」を記載したもので「三サ」と記載された投票は前記二票の外無効投票として取扱われた中になお四票発見されたから合計六票の「三サ」の投票を原告に対する有効投票とすれば原告の得票は六百五十一票となり(単に原告の姓のみを記載した投票三票の無効なことは是認する)原告の当選は有効であるに拘らずこれを無効と認定した小松市選挙管理委員会の決定並に被告の裁決はいずれも違法であるからその取消を求めると陳述した。(証拠省略)

被告代表者は原告の請求棄却の判決を求め答弁として原告主張の如く「三サ」と記載された投票が六票あつたが被告はこれを無効と認定したことは争はない。しかし「三サ」を原告の現在の通称の記載とは認めることができない。(一)原告は幼年期より二十七歳頃(大正三年)まで「さんさ」と通称されていたようだが大正三年に北海道へ転出し昭和十七年帰郷するまで他郷に生活していたから現在では同人の古い友人等一部の者に「以前の呼称」として記憶されている程度で現在一般に用いられている呼称ではない。(二)小松市選挙管理委員会の全候補者に対する通称雅号等の照会の際原告は通称を「じんさ」とのみ回答し又原告は選挙運動のポスターや演説会街頭連呼等に「じんさ」の通称を利用したが「さんさ」を用いることはなかつた。(三)他の「三」の字のついた候補者和田三次郎、橋本庄三郎、中村助三郎も或は「三サ」と通称されていたかも知れない。以上の諸点から被告は「三サ」を原告の通称の記載と認めなかつたのであるがもし「三サ」の投票六票を原告の有効投票とすれば原告の得票は六百五十一票となること、及びその余の原告主張事実は争はないと述べた。(証拠省略)

三、理  由

原告の通称が「さんさ」であるかどうか従つて「三サ」と記載された投票が原告の通称の記載として有効であるかどうかが本件の争点であつてその余の原告主張事実については被告の争わないところである。そこで「さんさ」が原告の通称であるかどうかを案ずるに証人宮越正秀、小田外吉、山本多美の証言を綜合すると原告は幼年の頃から壮年の頃までその郷里小松市蓮代寺町及びその附近に於て一般に「さんさ」と呼称せられていたところその壮年期の大正四年頃から昭和十年頃まで北海道へ転出していたが昭和十年頃帰郷後も従前通り一般に「さんさ」と呼称せられて現在に及んでいること、右呼称は右蓮代寺町のみならず小松市木場町符津町(これらの各町はいずれも村落であつたが合併により小松市に編入されたことは当裁判所に顕著である)等選挙区に相当広く一般に通用されていることを肯認し得べく従つて「さんさ」は原告の通称であると認めるのを相当とする。もつとも成立に争のない乙第二号証によれば原告が小松市選挙管理委員会の通称照会に対して通称を「じんさ」とのみ回答したことが明らかであるがこのような事実のみを以て前記認定を覆し難く又小松市議会議員候補者中その氏名に「三」の字を有するもので原告の外に「さんさ」と通称されているものが他にあることは被告の全立証によるも認めることはできない。しからば「三サ」の投票は原告の通称「さんさ」を記載したものと認むべく投票用紙に記載すべき候補者の氏名は戸籍上の氏名に限らず通称をも含むものとするを相当とするが故に「三サ」と記載された投票六票(この投票が六票あることは被告の認めるところである)は原告の有効投票に数えねばならない。そうだとすると原告の得票は被告の認める六百四十五票に六票を加えて六百五十一票となり次点六百四十八票の西清作より高点となるから原告の当選は有効でありこれを無効とした小松市選挙管理委員会の決定並に被告の裁決はいずれも違法であつてその取消を求める原告の請求は理由がある。よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 斉藤省一郎 観田七郎 米光哲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!